今週のDeribit Insightでは、各仮想通貨デリバティブ専門取引所においてどのような清算メカニズムが採用されており、それがこれまでの金融市場におけるデリバティブ取引所のものとどのように異なるかを分析します。私達は、仮想通貨デリバティブの取引所が、長らく待たれていたトレードにおけるイノベーションを創出し、市場参加者に自由な取引環境を与えたと考えています。ただしそれによって、リスクがなくなったわけではなく、イノベーションとトレードオフになったものも存在すると考えています。

伝統的なデリバティブ市場における清算のメカニズム

シカゴマーカンタイル取引所(CME)は世界最大の国際的なデリバティブ取引所で、そこでは多くの金融派生商品が上場されています。その中にはBTC先物取引も含まれていますが、CMEにおけるBTC先物取引は仮想通貨デリバティブ専門の取引所で提供されている先物取引とは、大きく特徴が異なっているものになります。

CMEにおけるBTC先物取引では、当初証拠金として注文額の40%が必要です。取引ができるのは月曜日から金曜日の平日のみで、取引単位も5BTC(現在価格で約4万ドル~)以上になっています。また、取引をしたいユーザーは直接取引所に注文を出すのではなく、CMEに取引を認められデリバティブ取引の知識を持つ、先物取引ブローカーと良い関係を築いておく必要があります。

ブローカーとの関係が重要な理由

ブローカーは自社を通じて取引する者を慎重に見極める必要があります。なぜなら、自社を通じて取引をする顧客が、ブローカーの資本に潜在的なリスクをもたらす存在になりうるからです。

ブローカーが損失を被るケースを具体的な例で考えます。

トレーダーの証拠金残高が必要な維持証拠金を下回ると、ブローカーからマージンコールが送られます。ここでは、当初証拠金として必要な額まで証拠金を入金するよう求められます。この証拠金の必要額は変動証拠金と言われるものです。

もしもマージンコールにおいて求められる額が期間内に支払われない場合、ブローカーは手動でそのトレーダーのポジションの清算を開始します。手動での清算が終わる前に口座の証拠金がマイナスになってしまった場合には、トレーダーはそのマイナス分の負債を負います。

そして、その負債の支払いを怠れば、トレーダーは破産手続きを取ることになります。それでもマイナス証拠金分を補えない場合には、ブローカーは自分の資本を使ってその破産したトレーダーの残した負債を支払う義務があるのです。

このため、どうしてもブローカーは自社の資本を使う必要がないと想定される顧客を選ぶ必要があります。

仮想通貨デリバティブ市場における清算

一方で、仮想通貨デリバティブは新しい金融商品で、独自の市場ダイナミクスを持っています。その結果として、仮想通貨取引専用に作られた取引所は、従来の取引所で一般的に採用される多くのプロセスや仕様とは一線を画す形で開発が行われてきました。

従来の市場とは非常に明白な違いがあり、例えば仮想通貨デリバティブ取引所にはブローカーの存在がないばかりか、当初証拠金として必要な額も各トレーダーのポジションの大きさによって異なるものの1%~10%の間に収まるようになっています。市場は24時間365日休むことなく開いており、最小ポジションも1ドルから注文が可能になっています。それに加えて、ユーザーはこの市場で取引に参加する為にこれまでのトレードの評価や経験が必要なく、KYCも規制が理由で行われているというのがほとんどの場合を占めています。こういった変化は市場参加に対する参入障壁を取り払い、仮想通貨デリバティブ市場は従来の市場参加者よりも更に広範なユーザーにとって魅力的な市場になりました。他にも預入証拠金が仮想通貨な取引所がほとんどな点も、差異として挙げられます。

なぜ仮想通貨デリバティブ市場では自動精算が導入されたのか

現在の仮想通貨市場全体の時価総額は2,500億ドルを超えています。これは他の金融資産と比べた時には、まだ比較的小さい市場です。しかしながら、仮想通貨の持つ高い資産変動リスクは、ホルダーのリスク管理を行いたいというニーズに繋がり、デリバティブ市場の整備がこのニーズに答えるのには最適でした。仮想通貨の需要は世界で高まり続けており、それによって市場はより高い流動性を持つことで、コストも下がってきています。口座開設の容易性も、顧客獲得を容易にしました。ただし、仮想通貨デリバティブの市場参加者は、1人1人が市場における経験や良いトレーダーかの評価がなく、持つポジションも小さいことから、清算プロセスは自動化する必要がありました。

どのようにして自動的に清算が行われているか

市場がある口座が破産する水準を超えて推移する場合、トレーダーの持つポジションが被る損失が、そのトレーダーの預入証拠金を超えてしまう可能性があります。そして、高いボラティリティをほこる仮想通貨市場ではこれが頻繁に起こるため、その損失に対する対策が必要になります。

上記の例では、ポジションの清算が完了する前にBTCの価格がアリスの破産価格を下回った場合、アリスは取引の担保にしていた証拠金(7,500ドル)以上の損失を抱えます。アリスとボブが直接取引契約を行っていた場合、ボブはこのままでは想定よりも得られる利益が少なくなってしまいます。

口座の証拠金残高が維持証拠金より低くなった場合に、リスク管理エンジンによってトレーダーのポジションを自動的にカットすることが清算の定義です。

リスク管理エンジンが稼働後、破産価格よりも良い価格でポジションの清算を完了させることができれば、清算が滞りなく行われたと判断します。それ以外の場合には、清算は失敗したと判断します。ただし、取引所側はトレーダーのポジションを必要以上に早く清算することはありません。なぜならこれはトレーダーからの不況に繋がる可能性がある上、負う必要のない損失を与える可能性があるためです。

以下は、現在各仮想通貨デリバティブ提供業者が提供している清算メカニズムの比較表です。

用語の解説

「段階的清算方式」は、部分清算とも知られ、必要な証拠金維持率を確保できるレベルまでだけポジションを清算し、清算を段階的にすることで必要以上の清算を避ける清算方法。

「一括清算方式」は、証拠金残高が維持証拠金を下回るとすぐに全てのポジションが清算され、ゼロカットされる清算方式。

「レバレッジ自動解消システム(ADL)」とは、反対方向の取引をしているトレーダーのポジションが、清算されたトレーダーの破産価格で強制的にポジション解消されるシステムのことです。

「社会的損失」はクローバックとも呼ばれるシステムで、清算に失敗したトレーダーのポジションから出た損失が、同じ契約で収益を上げているすべてのトレーダーの利益から負担されるシステム。

「ポジション割り当て方式」は流動性バックストップとも言われ、指定されたマーケットメイカーが破産価格に近いポジションを引き継ぐ方法。

「保険基金」はトレーダーのポジションが清算に失敗してマイナス証拠金になった分を取引所がカバーする為に用意された準備金のこと。

現在、仮想通貨デリバティブ取引所では、清算基準価格に、調整された独自のインデックス価格を利用しています。インデックス価格と清算基準価格の計算は、外れ値が不用意な清算をひきおこしてしまわないよう、価格操作に対する耐性が必要になります。例えばDeribitではインデックス価格の参照元に6つの取引所価格の中値を取る形を採用しており、6つの参照元のうちの最高値と最安値の取引所を除いた4つでインデックス価格が決定されています。さらに、清算基準価格として利用しているマーク価格は、公正価格と上記インデックスの差を30秒EMAで調整した価格が用いられています。この方法が採用された理由は、価格のクラッシュを回避する為です。実際、参照価格に先物取引の価格のみを利用する取引所では、大規模なクラッシュが頻繁に見られました。例えばOkexでのあるケースでは、大口トレーダーが流動性の低い時間に成売りで数珠つなぎの清算を引き起こし、現物価格が6,300ドルを下回ることがなかったにもかかわらず、7,000ドルから4,600ドルまで価格が下がるクラッシュが引き起こされました。

清算基準価格の調整は、デリバティブ市場の数珠つなぎ清算を守るのに貢献したか

2019年5月17日:20%のフラッシュクラッシュが起きた日

2019年5月17日に起きた例を見てみましょう。2:30 UTC(日本時間で11時半)にBitstampで突如4,300BTCが売られました。これはその週のBitstampの1日の平均出来高の3分の1にあたる量にあたります。

その影響で、BitMEXでは2億3000万ドル分のポジションが閉じられ、OI(売買建玉)も6億3000万ドルからから4億ドルまで減少しました。

当時、BitMEXのインデックス価格はBitStampが50%を占めていました。そんな中、BitMEXにおける出来高と開かれているポジションは、インデックス価格の参照元になる取引所に比べると、非常に大きいものでした。

市場参加者はこの特徴を利用し、BitStampでビットコインを大きく売り込むことによってBitMEXの清算基準価格になるインデックス価格を下げ、それによってBitMEXのロングポジション保有者の清算を狙いました。

1つの取引所での3000万ドル分のビットコインの売却が、他の取引所でその7~8倍にあたる2億3000万ドル分のポジションの清算を引き起こしたのです。これを狙った人にとっては、如何に資金効率が良かったかがわかります。

(Source: Skew)

当時取られていた対策と、それでは守り切れなかった理由

取引に何も制約が課されていない場合、理論上裁定取引(アービトラージ)を行う市場参加者は価格の安くなったBitstampでBTCを買値で購入し、同時にCoinbase Pro、Kraken、Bitfinexといった価格の高いままの取引所でBTCを売ります。これによって、価格変化の影響を受けていない取引所にも流動性が分配され、ある1つの取引所で起こる大規模な価格変化の影響を抑えることができます。

しかし、現実にはBitstamp内には4300BTCの売りを受け止めるフィアットは用意されていませんでした。仮想通貨裁定取引は、運転資金の効率的な管理に大きく依存する戦略です。その為、裁定取引を行うトレーダーは1つの取引所に多くのフィアットを置いていませんでした。また、BTCトランザクションが取引所に送金された後、承認されるまでの時間が長くなっていることから、Bitstampで購入したBTCを他の取引所に送金して販売するまでにも時間がかかっていました。また、仮に送金をすぐに行えたとしても、そこで得た米ドルをBitstampに戻す方法がなく、上記の理論を行う為に資金を回転させることは困難でした。

理論的には、1つの取引所のミスプライスは、裁定取引を行うトレーダーの資金で流動性を受け止める余地があったものの、それが出来なかったことで、デリバティブ市場は大きな影響を受けることになりました。では、どういった仕組みがあればこの影響を抑えることができたでしょうか。現存する方法としては、2つの解決策が考えられます。1つは参照元の取引所がレバレッジをかけられる現物の信用取引を用意しておくこと、もう1つが複数の取引所間でのBTCの移転を容易にしておくことです。

さて、もし仮にBitMEXのインデックス価格を構成するもう1つの取引所がBitfinexであれば、3倍までのレバレッジをかけて現物取引ができるため、保有するBTCを担保にして売り圧を吸収することができたでしょう。

また、Liquid Networkを用いて複数の取引所が連携していれば、裁定取引トレーダーは異なる取引所間のアカウントでBTCをすぐに移動することができたはずです。

この例からも分かるように、裁定取引を行うトレーダーは、市場の効率性を高める役割を担っていることから、彼らのニーズに答えた市場システムを整備しておくことは重要になります。

清算メカニズムを向上させるためにできること

仮想通貨取引は急速に進化を遂げており、多くの取引所が既に有効な清算マーク価格システムの調整を行う努力をしています。

より堅牢なインデックスの構築

5月17日のフラッシュクラッシュの際の各取引所におけるビットコイン無期限契約先物の最安値を比較すると、下記のようになります。

対照的な結果となったのが、主要なビットコインインデックス価格提供業者のその際の最安値です。

フラッシュクラッシュの際、BitMEXの無期限先物では

  • 他の4つのデリバティブ取引所の平均最安値に比べて$251または3.78%低い価格 かつ
  • 機関によるビットコインインデックス価格を平均した最安値に比べて、$267または4.01%低い価格

になっていることがわかります。

このデータからわかることは、より多くのインデックス価格の参照元を用意し、一部の外れ値に対する対策を取っておくことで、取引所が市場操作に対してより堅牢な仕組みを用意できることを示しています。さらに、外部のインデックス提供業者は、価格操作へのより高い耐性を持たせるため、より高度に複雑化したインデックスの計算アルゴリズムを継続的に更新し、実装しています。

インデックス価格を構成する参照元の数を増やすことによって、1つの取引所の価格を外れ値と判別して除外することが可能になります。これは非常に簡単な方法ではありますが、市場操作を行うためのコストを大幅に上昇させることができます。今回のレポートで紹介している取引所の中では、DeribitとOKExの2社がこの方法を取っています。そして、最安値比較の例からも分かるように、Bitstampの価格を除外していたり、インデックス計算に不正な価格操作への対策を組み込んでいたすべての取引所では、清算が少なく、ユーザーの資本も守られる結果になりました。

下記チャートは、5月17日におけるTradeBlock社のXBX IndexとBitstampの安値を比較したものになります。

(Source: TradeBlock)

段階的生産方式と一括清算方式の比較

取引所利用者にとっては、段階的清算方式が一括清算方式よりもより有益です。その理由として、段階的清算方式の下では、1つの清算がトリガーとなって別の清算が連鎖する現象が起こる可能性がぐっと下がることが挙げられます。Bitstampでの3,000万ドル分のBTCの売却は、一括清算方式で清算に追い込んだ2億3,000万ドルのポジションのうちの一部しか清算を起こすことができず、こういった投げ売りによる攻撃でを引き起こしたトレーダーの報酬も、はるかに低くなっていました。

段階的清算法式にも様々な方法があります。Deribitでは、ポジションの12.5%ずつ徐々に生産を行っていき、有効証拠金が必要な維持証拠金を上回るとそれ以降の清算プロトコルを停止する方式を取っています。これによって、価格が戻った時にトレーダーのポジションが全て清算されないことで数珠つなぎの清算を避け、市場の回復もすぐ行われます。これによって、Deribitは3年間の取引所運営の中で、一度も「社会的損失」が起こっていません。

OKExでは、一括清算から有用な結果を残している段階的清算方式に切り替えています。ポジションの大きさとティアレベルに応じて、最低ティアの水準まで落とされるか、一括清算が行われるかが決まる方式を導入したのです。この清算法式の導入以降、OKExは非常に高いボラティリティを持つ取引所にも関わらず、「社会的損失」を引き起こしていません。

一括清算という概念が、従来の金融市場には存在しないことも、示しておく必要があります。従来の方式では、ブローカーはクライアントのポジションを清算する際、維持証拠金が十分になるまでポジションを減らしますが、全てのポジションを閉じることはしません。一括清算方式を今後も仮想通貨取引所が使用し続ける正当な理由は見られないことから、段階的清算方式が業界のスタンダードとして落ち着くと考えられます。

取引制限とサーキットブレーカー

多くの株式や先物の市場では、突然起こる急激な価格の変動は、取引の中断を引き起こします。各取引所は、許容できる価格変化を計算しており、これを超えると取引を停止するという値幅制限が設定されています。こうした制限はサーキットブレーカーと呼ばれ、価格が急にこの価格を超えて動いた場合、一時的な売買中断措置が取られます。この状態になると取引所は取引機能が制限された状態になりますが、トレーダーは必要に応じて自由に注文を入れたり、キャンセルしたりすることができます。この一時的な中断ののち、取引が再開されます。こうした値幅制限は、市場に出ている注文に対する大規模な投げ売りを回避する為に導入されました。

保険基金の採用

保険基金は、大きなポジションの保有者への確実な支払の為にあります。しかしながら、この基金がどのように管理されているかはわかりません。保険基金を所有しているのは取引所になるため、この基金はトレーダーの為の保険としてではなく、取引所の他の収入源として利用される恐れがあります。下記の例はBitMEXの保険基金で、これぐらいの資金を確保しておくことが、高いボラティリティ下での確実な支払を可能にするために必要だと判断されていたからです。それにも関わらず、5月17日には、BitMEXの保険基金はその資金を減らすことなく過去最大レベルの上昇を見せ、750BTC増加したのです。

保険基金に代わる方法として、流動性バックストップシステムと呼ばれる、ポジション割り当て方式を使う方法があります。これは、指定されたマーケットメイカーが清算されたトレーダーのポジションを破産価格到達以降引き継ぐというものです。この方法は保険基金を利用する場合ほど安全とは言えず、市場の状態によって成否はあるものの、清算プロセスに追加レイヤーが加わることによって、顧客に優しい設計が可能になります。

また、一定量を超える保険基金は取引所の安全性を上げますが、過剰に保険基金が存在するのは清算が起こりやすいことを示す場合もあります。取引所が保険基金を導入することで、段階的清算方式の導入の検討ややインデックス価格の堅牢化など、取引所としてのイノベーションを探求するインセンティブがなくなる恐れもあります。BitMEXは最初に保険基金を開発、導入した際、「保険基金に過剰なビットコインが貯められることはめったにないはずだ」と予想していました。しかし、現在のBitMEX保険基金の量のチャートを見ると、右肩上がりに保険基金が増えている現状は、保険基金に過剰なビットコインが保有されている状況だ、と言えるでしょう。

(Source: BitMEX)

総論

仮想通貨は革新的なテクノロジーであり、取引環境も急速に整備されてきました。革新的で、成功をおさめるビジネスがいくつも産み出されてきています。各取引所は、潜在顧客の求めるものを提供することで、参入障壁を下げ、伝統的な金融市場の取引所よりも多くの層のユーザーを獲得したと言えます。そして今、デリバティブ取引はシームレスで世界中に広がり、24時間365日中断されることなく取引が続けられています。

そんな中で、市場参加者のレベルはより洗練されてきており、取引所に対しても高いレベルのサービスを求めています。従来の金融市場の例にもあるように、仮想通貨市場でも、顧客が自分のお金を賭けていることを正しく認識し、ユーザーと利害を一致させ、ともに歩んでいく取引所がこれからより繁栄していくことになるでしょう。

Credit: Su Zhu, Hasu and Arthur